坂の上の雲 最終回「日本海海戦」
3年にわたり圧倒的な描写とスケールによって、我々を魅了してきた坂の上の雲もとうとう最終回となってしまいました。原作はあえて読まずに余計な先入観を持たないように映像に集中するようにしてきましたが、それも最後なってしまうのがなんだか寂しく感じます。
前回の終わりから始まった日本海海戦。バルチック艦隊を東郷ターンと呼ばれる丁字戦法で、次々と打ち破っていきます。敵戦艦の前で急ターンするのは知っていたのですが、それによってどのようなメリットがあるのかは事前に「その時歴史が動いた」の第1回放送で予習ができていたので、それがビジュアル的な攻防を今回合わせてみることによって腑に落ちたような気がします。
東郷は、前回の日本海に行くか太平洋に行くか選択する際に、自分の意見が違ったとしても参謀の意見を取り入れる柔軟な姿勢を見せてくれました。それが、今回の丁字戦法でも秋山真之の意見を取り入れた結果、見事に勝利。有能なリーダーはうまく部下の意見を取り入れ最適解を導くという典型のような存在といえるでしょう。ちなみに東郷は、その後も大きな影響力を与え続ける存在になっていったといいます。
壮絶な日本海海戦ですが、このドラマではきちんと敵方の観点もしっかりと入れていて、ロシア側がどのように戦い抜いたのかも描いている点が、今までのドラマにないこのドラマの魅力だと思います。一兵士としてその他大勢として描かれることがほとんどなのですが、勝利後にロシア側に乗り込んだ秋山がみたロシア側の壮絶で悲惨な状況は、見ていて胸が苦しくなるほどでした。ロシアの人から見たときに、これが真実なのかどうか、それは分かりませんが、少なくとも一方的に日本勝利を描くのではなく、その裏側にあるロシア敗北という現実を描いてはじめてドラマに深みが出るんだと思います。
今回のドラマの最大の見せ場はなんといっても、秋山兄弟の母の死でしょう。満州で電報を受け取った好古は「淳は間に合ったかのう」とつぶやきます。この場面から、真之は間に合うのではないかと期待していたのですが、現実はギリギリ間に合わず、なくなった母に話しかけます。自分は少しは世の中のために役に立ったのかということを。今までやってきたことを認めてほしいのは母親だったのですが、その存在が居なくなって自分がやってきたことの正しさに悶々とします。
その閉塞感を打ち破ってくれたのが好古の釣りでの一言、「おまえはよくやった」ということでした。この後真之はなんか解放されたような表情を見せます。こういう細かい演出が素敵ですし、それを迫真の演技で固める阿部寛と本木雅弘はさすがでしょう。
この二人を中心に描かれているため、ポーツマス条約の状況や小村寿太郎の無念、日比谷焼き打ち事件といった内容が薄いのは仕方ないことなのでしょう。ここまで来るとそういったところも詳しく知りたくなってきますが、それは自学でまかないたいと思います。
好古や真之、そして乃木や児玉たちが口々に言っていた「この先の日本はどうなるのだろう」という思い。それを我々は知っているのですが、上のみを目指して登っていった先人のこういった思いは、歴史が示すとおりの結果となります。この結果は、彼らが望んでいたものなのか、それともそうでないのかは今ではわかりません。
今回のドラマを見ていると、1つ感じたことがあります。このドラマの完成度や人間模様はすばらしく、このようなすばらしい歴史作品に出会ったとき、その時代に興味がわき、さらにその周りに起こった色々なことも知りたくなるという広がりをみせるということ。このドラマから、明治を生き抜いた人々の生き様をもっと違った視線で見てみたくなりました。そんなきっかけを与えてくれたこの作品に、心から感謝したいと思います。
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