低温殺菌牛乳の生みの親
牛乳パックの上部にある「切欠け」と呼ばれるかけた部分が一部の牛乳にあることを以前紹介しました。これは種類別「牛乳」となっているもののみに許された印なのですが、先日購入した牛乳には切欠けがついていなかったので、よくよく裏面を見てみると種類別の部分に「成分調整牛乳」と書かれていました。同じ牛乳でも「牛乳」だと切欠けが許されるのに「成分調整牛乳」では許されないもののようです。
◆牛乳の種類
では一体自分たちが日常的に飲んでいる「牛乳」にはどのような種類があって、それぞれどのようなものなのだろうと気になって調べてみました。社団法人日本酪農乳業協会によると、その種類は6種類にも及ぶそうです。以下に簡単に紹介します。
・牛乳
牛から搾ったままの乳である生乳を加熱殺菌したもので、水や他の原料は入ってない。乳脂肪分3%以上、無脂乳固形分8%以上の成分を含むもの。
・成分調整牛乳
生乳から乳脂肪分の一部を除去するか、水分の一部を除去して成分を濃くするなどの調整を行った牛乳のこと。
・低脂肪牛乳
成分調整牛乳のうち、乳脂肪分を0.5%以上1.5%以下にしたもの。
・無脂肪牛乳
成分調整牛乳のうち、乳脂肪分を0.5%未満にしたもの。
・加工乳
生乳または脱脂粉乳やバターなどの乳製品を原料に、乳成分をふやしたものや、乳脂肪分をへらしたものなどがある。濃厚ミルクまたは乳や低脂肪乳など。
・乳飲料
生乳または乳製品を主原料に、乳製品以外のものを加えたもの。カルシウムやビタミンなどを強化したものや、コーヒー・果汁などをくわえたものなどがある。
思いの外厳密に決まっているという印象を受けます。成分についていじらないもののみが牛乳と呼んでよく、水分を減らしたりするだけで切り欠きの条件を満たさなくなってしまうのです。さらに牛乳から無脂肪乳までが生乳100%使用しているもので「牛乳」と名乗っていいものになります。
◆加熱殺菌の方法
次に、牛乳の処理の中で大切な加熱殺菌の方法について見ていきます。加熱方法には大きく高温殺菌と低温殺菌があります。現在日本で市販されている通常の牛乳は 130度で2秒間殺菌する超高温瞬間殺菌と呼ばれる方法が利用されていますが、これよりも低い温度で殺菌した牛乳もあります。それが低温殺菌牛乳です。
一般に低温殺菌としては、62度から65度で30分間もしくは75度で15秒間殺菌する方法が利用されています。この利点は成分が熱によって変わることを抑えることができるのでより原料に近い牛乳本来の味を楽しむことができます。しかし、時間がかかってしまうことや原料管理の難しさから大量生産するのは難しいとされています。
◆低温殺菌法のなりたち
この低温殺菌法はパスツール法ともいわれていて、英語では「Pasteurized(パスチャライズ)」と名前にちなんだものになっています。この方法を生みだしたのがフランスの科学者ルイ・パスツールという人で、細菌学や予防医学の基礎を作りだした人として有名です。よく牛乳瓶やパックに「パスチャライズ牛乳」などと書かれているものを見たことがあるという人もいるのではないでしょうか。
この低温殺菌法が生まれるきっかけとなったのは、1863年のある出来事でした。フランスが輸出したワイン520万キロリットル(瓶だと70億本にもなる)が腐ってしまうという事件が起きました。これに対してパスツールは、腐ってしまった原因が細菌にあると考え55度という低温でワインを殺菌する方法を提案します。この温度ならワインの香りや風味を壊すこともないので安心です。こうしてフランスのワインは救われたのです。
このように、牛乳は様々な加工をされ今に至っています。そこには偉大なる先人の発見や工夫が凝縮されていることが今回分かりました。こうした知識を持って飲んだ牛乳は少しだけ違った味になるかもしれませんね。そして目の前の子供は今日もたくさんの牛乳を美味しそうに飲むのです。(彼はたぶん牛乳の種類などは気にしないでしょうが・・・)
【参考】
・メトロガイド No.131
・社団法人日本酪農乳業協会 http://www.j-milk.jp