ピラミッドの「割れ目」から見える秘密
エジプトにあるギザのピラミッドは、5t以上もある石を230万個以上積み重ねて作られた世界遺産のひとつです。このギザ台地に今危機が迫っています。ギザの神殿の前や、ピラミッド建設が携わった人々が住んだワーカーズビレッジに大きな水溜りが出現したのです。水が遺跡の側にわくということが遺跡の崩壊を意味します。
実は、この辺りで水の問題が勃発したのは今回が初めてではありません。1998年スフィンクスで内部から崩壊が進んでいたのです。ザヒ・ハワース博士・考古県庁長官らによる必死の解析で、原因は台地に溶けていた塩分がわきだしたことによる塩害であることがわかりました。周辺地域は古代エジプトの時代と大きく様変わりし住宅が遺跡付近まで押し寄せ、生活排水が流されていたことが問題だったのです。
そこで、遺跡周辺を地下からブロックでガードする施策を行い、一応の解決を見たのです。しかし、今回再び水がわき出してきました。ザヒ博士は世界的な岩盤工学の権威である谷本親伯博士へ連絡をとることに。
谷本博士は、遺跡付近に吹き出している水周辺で塩害が生じていることを確認します。このままでは遺跡に相当影響を及ぼす危険性があると早急な対処が必要であるとの見解を示します。
水がどこからやってきたのか、その秘密の鍵をツタンカーメン黄金のマスクで有名な王家の谷で見つけることができます。谷本博士は王家の谷にある遺跡の多くが岩盤に縦方向の割れ目をたくさんもつことに着目しました。この縦方向の割れ目は遺跡が作られた当時から存在し、古代人は岩盤の割れ目に沿って縦方向に掘っていったのです。それによって比較的容易に深い穴を作ることができたとされています。割れ目の効果は以下の2つ。
・割れ目があると石を切り出しやすい
・割れ目は地下水を伝えやすい
スフィンクスのすぐ後ろにあるオシリス・シャフトで割れ目の秘密を垣間見ることができます。割れ目がパイプの役割をして水を通したのです。オシリス・シャフトの一番下には、地下水の水たまりができていました。この美しい水は生活排水ではなく、大自然の地下水です。割れ目を使って、大自然の水を引き込み、儀式に使ったとされています。
大自然に存在する地下水は、時に巨大な岩盤の割れ目からわきだしオアシスを作ります。遺跡付近には、これまでわきあがっていなかったのですが、ギザ台地の環境が激変し、住宅で取り囲まれ、アスファルト台地が覆われてしまいました。それによって生活排水が、地下水の呼び水となっていたのです。
この問題に対して、ザヒ博士は大胆な計画を現在進行中です。それはギザ台地にあるアスファルトを全部引きはがし、家までも撤去することによって古代の状況に戻そうとする案です。これも全て生活排水を排除し遺産を守るためなのです。
その計画が実現するまでの応急措置として、水をポンプで汲み上げる対処がされています。日本の支援によって浄化装置が設置され、汲み上げた水はナイルへと戻されていき、川の浄化に一役かっています。
ピラミッドは、エジプトの遺跡ですが同時に世界の遺跡でもあります。その遺産を守るため、これからも地下水を地球環境の変化として注視していく必要があるのです。3000年前からこの街は今にいたり私たちの目に触れることができるこの奇跡を、どうせなら3000年後の後世の人々に伝えていくことができればどんなに素晴らしいでしょう。そのために現代を生きる自分たちに何ができるでしょうか。
【参考】素敵な宇宙船地球号 3月8日