電力と温暖化ガスの天秤の行方
先の震災を契機に原発に依存しない電力の創出に向けて様々な取り組みが活発化しています。その中で東京都の副知事が発表したのが「東京都天然ガス発電所」という構想です。都内に発電施設をつくり、そこでコンバインドサイクルと呼ばれる発電方式を使って100万キロワットもの発電能力のある施設が作られるといいます。この量は、原発1基分に相当する量になります。
コンバインドサイクルとは、ガスタービン、蒸気タービンのふたつを組み合わせた発電方式で、まず天然ガスを高温で燃やしてガスタービンを回します。その際に出る排熱で水を蒸気に変え、今度は蒸気タービンを回し効率的に熱を利用します。このふたつを合わせた発電効率は約60%であり、原発の約30%、蒸気タービンだけを利用する通常の火力発電の42%を大きく上回る、非常に効率に優れた発電方式だと期待されています。
この発電施設の原料となるものは天然ガスなのですが、ここにも大きなメリットがあるといいます。石油資源の枯渇が世界的に叫ばれている中で、天然ガスの埋蔵資源量は数百年分もあるといわれており、燃料不足を心配する必要は皆無です。さらに、天然ガスは東京湾や房総半島の地下など、南関東一帯に大量に眠っているとのことで、自活することができる夢のような循環が実現することになります。
ジャーナリスト・有賀訓さんによると、東京、千葉、茨城、埼玉、神奈川にまたがる120キロメートル四方のエリアに、南関東ガス田と呼ばれるメタンガスが大量に蓄積されていて、千葉県茂原市九十九里地域などは、天然メタンガスを含む地層が地表近くにまでせり出しているため、自宅敷地内にガス井戸を掘り、そこから取り出したガスで風呂たきや煮炊きをしている民家もあるほどだといいます。
さらに、天然ガス発電所の建設コストは原発の4分の1程度で、広い敷地を必要としません。また、たった1時間で最大出力にあげることができるので、貯めるコストのかかる電気を時々刻々と変わる需要に合わせてリアルタイムに作り出していくことができるのです。
まだ計画段階ではありますが、ここまで魅力の高い発電施設なので、今後計画自体が進展していくことは間違いないでしょう。
しかし、一つの疑問が残ります。それは、震災前まで多くの著名人が懸命に取り組んできた温暖化ガス削減への取り組みが、この議論の中に存在しないこと。メタンは強力な温室効果ガスでもあり、同じ量の二酸化炭素の21倍から72倍の温室効果をもたらすとされています。それを一気に活用しようというのですから、温暖化ガスの排出量はうなぎ登りに上昇していくことでしょう。
その問題をどのように解決していくのか、新たな資源エネルギーの活用は常にその検討が必須なのだと思います。そして、それを伝える側としても厳しくチェックする目をもっていかなくてはならないのではないでしょうか。その結果、新たな問題を発生させることなく、気持ちよく利用できる電気になってくれれば、そんな嬉しい世界はないでしょう。
【参考】週プレNEWS http://wpb.shueisha.co.jp/2011/09/26/7109/
大転換する日本のエネルギー源 脱原発。天然ガス発電へ (アスキー新書) (2011/08/10) 石井彰 |
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