COP10にみる生物多様性の思い
現在地球上には、科学的に明らかになっている生物が約175万種、未知のものを含めると約3000万種もの生物が存在するといわれています。それら多様な生物は、これまでの進化の過程で環境になじむために自らに「機能」を持たせてきました。
その機能は、生物が自らを守るために身につけたものなのですが、それを人間は薬という形で利用するようになります。始めは原住民から、そしてそれに目をつけた先進国の製薬会社へと利用者が広がっていきます。利用者が広がっていけば、その生物を多く捕っていかねばなりません。
機能を持った生物の多くは、発展途上国に存在しています。彼らは、生物にどのような機能があるのかということよりも、今その生物が高値で売れるという直近の暮らしを考え、より多く採取しようと考えるようになりました。その結果として、一部の生物は絶滅が危惧されるまでに激減してしまう結果をもたらします。
そういった多様な生物の生態系を守り、機能を自分たちが将来にわたって、みんなが納得する形で利用し続けるにはどうしたらいいのかを話し合う国際会議がCOP10であり、2010年に名古屋国際会議場で日本が議長国として行なわれました。
その場で主に議論となったのは、先進国が主に発展途上国から採取している生物資源の利益配分に関する国際的な枠組みを作ることにあります。この問題は国の利益に直結する問題なので利害が対立しやすくとりまとめることは困難であると言われてきて、実際にそうなりました。環境問題であることは認識しつつも、自分たちが損になるようなことはできるだけ避けたいという相反する思いを結びつける必要が議長国である日本にはあったのです。
議論するうちに、この生物を薬品に使う際の資源国と利用国の利益配分に関して、以下のように様々な課題があることが浮き彫りになります。
(課題1)主な原産国以外から発見した生物から薬品が作られた等の国境をまたぐ場合に、原産国と発見した国のどちらが資源国となるのか。
(課題2)生物から採取した物質を人間が化学合成した場合には、資源国にどう配分するのか。
(課題3)条約が締結される以前にさかのぼって資源国から採取された生物を利用国が利益配分するべきか
どれも非常に重い問題であり、実際アメリカなどはこれらに独自の考えを持っているため条約に批准はしていません。非常に判断が難しい枠組み作りであり先進国と発展途上国の間の議論は平行線のまま閉幕期限に近づいていってしまいます。
このままだと議長国としての威信に関わる日本は、ここから素晴らしい仕事をすることになります。関係国が示した譲歩案をとりまとめ、見事に議長案を採択することに成功します。
その内容は、資源国の間で基金を設立し利用国はそこに生物資源やその知識を利用して得た利益を配分します。それを資源国の間で分配するのです。またさかのぼって利益を配分するかの決定と化学合成物質への適用は今回見送りとなり今後の継続審議となりました。
今回の採択は、利益をきちんと配分し資源国がその資金を利用して生物保護に取り組み、そして利用国はルールに則って薬品を利用できるという枠組みを作れたことに大きな意義があります。利害が交錯する中、世界の人々が同じ問題意識をもち、それを解決しようと努力した結晶なのです。その中で日本が議長国として果たした役割は本当に大きく、日本人として誇りに思います。
こうしてできた名古屋議定書は、まだ始まりに過ぎないことは誰もが思っていること。まずはしっかりと批准した国々でルールを適用し生物資源が守られているという実績を作らないと、これから先につながってはいきません。そういう意味で資金を提供する利用国も、その資金を利用する資源国も成果が求められるのです。
いのちのつながり よく分かる生物多様性 (2009/04/25) 香坂 玲 |
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