ツインカップ
何度か紹介している東京メトロの駅で配布しているフリーペーパー「メトロミニッツ」の中の一コラムである「撮りながら話そう」はいつも読み手の心を揺さぶる物語に溢れています。自分がこのフリーペーパーを読むのが楽しみに20日を待っているのはこの記事があるからこそなのです。
いつかこの記事をまとめて本にしてほしいと思うくらい、その内容の完成度はかなり高いと思います。今日は今月号に掲載された「ツインカップ」を紹介します。
千葉県は房総半島の国道127号から外れたところにぽつんとある喫茶店「カフェ・恵」。
家はバラック建ての粗末な平屋建てで、店内には白いワンピースにアプリコット柄の前掛けを羽織った色白の30代とおぼしき女性と、逆に色黒のがっちりとした精悍な感じの男性がそろって、「いらいっしゃいませ」と人の心に染みいるようなデュエットで迎えてくれます。
カウンターの上のガラスの陳列ケースには2つのコーヒーカップが仲良く並んでいます。そこに書かれていたのは「meg」と「hide」という文字。店の風貌とは異なり、そのカップはマイセンのものでした。
数年後に再度立ち寄った「カフェ・恵」に小さな変化が起こりました。「meg」のカップだけがないのです。しかし2人はいつものようにそこにいたのです。
数ヶ月後に訪れると、「meg」のカップだけでなく「meg」自身もいませんでした。hideに問いかけると「ずっと患っていた乳ガンが3ヶ月ほど前、肺に転移し入院しておりまして・・・・」とのこと。
さらにその半年後、「カフェ・恵」のあった場所はアスファルトの駐車場になっていて、その周りには秋の日差しのもと、たくさんのアメリカ泡立ち草の黄色い花が風に揺れています。
「いらっしゃいませ・・・」
不意に、あのデュエットが聞こえたような気がしました。
本当に短い小説なのですが、この二人はおそらく夫婦だったのでしょう。ずっと二人の夢だった喫茶店を開くことができ、奥さんであるmegも旦那さんであるhideも幸せだったに違いありません。
そんな彼らにも運命は残酷にも降り注ぎます。この後旦那さんはどうしたのかは分かりません。どこかで奥さんの想いをつなぎ続けているのかもしれません。そんなストーリーが次々と頭に浮かんでは消え、なんとなく切なくなってしまうのが、作者である藤原新也さんの作品なのです。
【参考】metro min. No.078
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