後手に回るバイオエタノール政策
かつてサトウキビを使ったバイオエタノール事業にいち早く着手したブラジルが今、その政策を大きく方向転換しようとしています。ブラジル政府は2009年9月、国内の92.5%の面積を対象にサトウキビ栽培を禁止する法案を提出したのです。
サトウキビは石油に代わるエネルギーであるエタノールを生み出すことができることから世界中で爆発的に栽培されるようになり、需要の高まりと共に価格の急騰が発生しました。当然多くの人がサトウキビをもっと栽培するようになり、熱帯雨林を多くもつブラジルでは、森林を密かに伐採してまで栽培する人まで現われました。
このようにして広がる森林破壊に対して、世界中から批判が起こるようになります。その批判への対応する狙いで、今回ブラジルの法律制定があると考えられています。この内容を報じている日本経済新聞では次のように記事をしめています。
「ブラジルのサトウキビ栽培面積は780万ヘクタールで国土の約1%。熱帯雨林や湿原はもともとサトウキビ栽培に向かず、法律が制定されても生産拡大にはほとんど影響が無いとみられる。」
果たしてそう言い切れるのでしょうか。これまで、様々なメディアでアマゾンの熱帯雨林で森林伐採し、焼き畑農業を行っている様子が示されています。その中には当然サトウキビ畑も存在するでしょう。統計では示されない実態がそこにはあるような気がしてなりません。
人は生活のため、生きるためにお金を稼ぎ、食べ物を入手します。そういった毎日の生活が苦しい状況下では、地球環境のことは二の次になってしまうのは容易に想像できることでしょう。法律というムチを与え取り締まることは必要なことではありますが、それでは根本的な解決は何もできません。
元々、バイオエタノール事業はエネルギーを得るためどこかに必ずひずみを生じさせる課題を抱えています。栽培していなかったものを大量に栽培することによる土壌への影響、元々必要とされ流通していたものへの影響などを考慮すると、非常に難しい舵取りが必要であり、それらは予め分かっていたことなのです。
作物から取り出すエネルギーには限界があることを、このブラジルの例からも学ぶことができるでしょう。自分たちは、太陽光や太陽熱、地熱、風力、海水といった自然界から得ることができるものを使ったエネルギーなど、バイオエタノールに代わる次世代のエネルギー源を早急に立ち上げる必要があるのではないでしょうか。
【参考】日本経済新聞 2009年9月18日
バイオエタノールと世界の食料需給 (2007/10) 小泉 達治 |