広告を広告らしく見せないメトロミニッツ
毎月20日に東京メトロの駅53駅に備え付けられている専用ラックに置かれるフリーペーパーがあります。そのフリーペーパーは、前日の19日から配布されているのですが、2日程経過するとすでにすべてが”完売”状態となっており、1冊も残っていない状況になります。うっかり取り忘れてしまうと、もう読むことすらできないのです。
そのフリーペーパーは「metro min.」(メトロミニッツ)です。東京メトロを利用する20代から30代のはたらく人を対象としたこのフリーペーパーは、「少しだけ見方/捉え方/考え方を替えてみよう!」というメッセージを常に持っていて、日常をほんの少しだけ違った角度から楽しむことができるように記事が構成されています。
例えば、夜に一杯飲みにいくお店を「昔ながらの女将さんがいる」お店という角度から探し求めたり、六本木で癒されることを目的にした場所やお店の紹介など、どこでどのようなことをしようという1つのテーマに沿って、記事が並んでいます。
そしてそれらの記事は、そのほとんどが広告になっていることが注目すべき点です。記事自体の8割は編集者の思いやライフスタイルに関する提案でとても広告とは思えないような読み物となっていて、残りの2割がそのお店やイベント、商品の紹介部分になっています。その紹介部分が記事の中にうまく融合していて、読者としては商品を押しつけられた感じが全くしないのがこのフリ-ペーパーのすごいところなのです。フリーペーパーのなかでここまで完成度が高いのは、なかなかお目にかかれないと思います。
この記事と宣伝したい内容をうまく融合して全体として1つのテーマを掲げて、読者に提案する形は、広告全体が飽和していて読者が拒絶反応を示す中で非常に有効な手法といえると思います。リクルートが発行しているR25というフリーペーパーもありますが、あれは完全に読み物部分と広告部分が分離されています。読み物自体はすごく興味関心を惹きつける内容で無料以上の価値を提供してくれているのですが、広告部分の効果だけみると、メトロミニッツの方が上だと思います。
このメトロミニッツを発行しているスターツ出版は、Metro min.(メトロミニッツ)のiPhone/iPod touch/iPad対応の電子雑誌アプリを、App Storeにて発売しています。最新号は無料でバックナンバーは115円かかるそうです。バックナンバーを有料で提供できるだけのコンテンツの価値があるという現れでしょう。
メトロミニッツは最近、全面リニューアルしました、それによって、これまで連載していた藤原新也さんの「撮りながら話そう」や、 山田五郎さんの「MADE IN TOKYO」が無くなってしまったのが非常に残念です。藤原さんの短編記事に対して読んでいる電車内で涙し心動かされ、山田さんの東京生まれ東京育ちのものへのトリビアに新たな発見をしたりすることがないのは、それ以前から楽しみにしていた自分としてはなんだか穴があいてしまったように思えます。藤原新也さんの「撮りながら話そう」については、その内容をまとめた「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」と本があるので、是非おすすめさせていただきます。日常にある人の想いを感じることができるすばらしい内容だと思います。
内容としてすべてを1つのテーマで埋め尽くすのではなく、上記のようないくつかのコンテンツが集まることによって、1冊のフリーペーパーへの思いや印象をよりたかめることができるのではないでしょうか。1足す1が2以上の価値を生み出す、そんな以前のような強烈なサブコンテンツの登場を願ってやみません。
【参考】
・メトロミニッツ http://www.metromin.net/
・ガジェット通信 http://getnews.jp/archives/62281
コスモスの影にはいつも誰かが隠れている (2009/08/28) 藤原 新也 |
◆関連する記事◆