木材を乾燥させる秘密
木造の建物は時間が経つにつれて徐々に木材にひびが入ったり、変形してしまうことによってゆがんでしまうことがあります。木という自然のものを利用している以上コンクリートよりもそうなってしまうのは仕方ない面もありますが、その多くは木材の段階での乾燥方法にも要因があるのです。
木材の乾燥は人工で行なわれることが多く、100度以上の高温で一気に乾燥させます。早く乾燥させることができる反面、乾燥の段階で多くの油分が流れ出てしまうためにパサパサした状態になりがちです。その結果として上で紹介したようなヒビなどが生じてしまうのです。特に日本の人工林の半分以上を占めるスギは乾燥するのが難しい木材のひとつで施工後にゆがんでしまうこともあるため、使われにくい状況もあります。
このように、木材を乾燥させるということは全行程の中で重要なポジションを占めている非常に大切な作業なのです。その工程には昔から職人たちの手によって伝えられてきた伝統的な乾燥方法の他に新しい乾燥方法も登場し、今密かに充実してきています。今回はそんな木材の乾燥法という日常生活ではあまり利用しませんが、将来住宅を建てる際などで使える情報を紹介したいと思います。
◆池に眠る木材
滋賀県のとある池にはヒノキの丸太が大量に浮かんでいます。一見乾燥することと正反対のように見えますが、これも水中乾燥という昔から伝わる乾燥方法で、1年ほど水につけてから引き揚げ、さらに半年から1年程度置いておきます。
これは、一度水につけることによって丸太の中に含まれる樹液をはき出させ、代わりに水分が入り込みます。こうすることによって池から引き揚げた際に内部の水が早く均一に抜けてくれるというのです。この水中乾燥によってムラなく乾くことになるので割れにくい木材ができあがり、樹木の油分が適度に残ることから色やつや、香りがいい木材に仕上がるのだそうです。この乾燥方法は伊勢神宮に使用する木材にも利用する昔からの方法だといいます。
◆気持ちよく汗を流す木材
アイ・ケイ・ケイの伊藤好則会長が開発した新しい木材乾燥法が「愛工房」という商品に取り入れられています。上でも紹介しましたが、100度以上の高温で一気に乾燥させるのではなく、45度程度の低温で乾燥させます。しかも驚くことに80度だと1週間はかかっていたとある材木の乾燥時間が、45度だと3日で済んだというのです。伊藤さんは、スギの気持ちになって無理矢理汗を搾り取るのではなく、自然に気持ちよく汗を流してもらうと表現しています。すごくわかわりやすいですし、第一木材への愛情を感じます。
このように、木材の乾燥方法は長い年月をかけて語り継がれるものもあれば、新しく生まれるものもあります。どちらにも共通していえることは効率的に早さを追求したシステムオートメーションでは為し得ない商品となることにあるでしょう。よいモノは手間を掛けてじっくりと作られていきます。その中で木材とのコミュニケーションをしっかりととることが出来たとき、自然からの大きなプレゼントを得ることができるのです。そんな木材で建てた家に住むことができたのなら、こんな幸せなことはないのではないでしょうか。「乾燥」も奥が深い世界なのです。
【参考】日経マガジン 2010年2月
木材乾燥のすべて (2006/01) 寺沢 真 |
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