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消えゆく花畑とライチョウ

2008/11/10 Category: 環境問題

仙丈ヶ岳

南アルプスの仙丈ヶ岳。

ここは、「南アルプスの女王」と呼ばれるほど気品ある山と言われていて、多くのライチョウや高山植物が生息しています。ライチョウは仙丈ヶ岳の雪や寒さによって、周りからの外敵から守られています。

そんな、仙丈ヶ岳の山小屋である「仙丈小屋」の小屋番である宮下さんは、かれこれ7年もの間、仙丈ヶ岳で小屋番をしています。この仙丈小屋は近年問題となっている山小屋による環境破壊を考慮し、太陽光発電や浄化槽を備えるなど環境にも優しい小屋を作り出しています。

今年、その仙丈ヶ岳に一人の写真家が訪れました。写真家の石川直樹さんです。彼は2001年に世界最年少で世界7大陸を制覇した冒険家でもあります。石川さんは仙丈ヶ岳に生息するライチョウを見に行くため山頂を目指します。山頂では、仙丈ヶ岳から富士山と北岳が一緒に見える景色(登山家の間では「アルプスフィニッシュ」と言うそうです)んぼ絶景に歓喜の声を上げ、まるで主のように人間を怖がらないライチョウを写真におさめます。南アルプスのライチョウは年々その数を減らし、今では南アルプスで260羽しかいないそうです。

7月になると、多くの登山家と共に様々な高山植物がその姿を見せてくれます。チングルマ、キバナシャクナゲ、ミネズオウ、ハクサンチドリなどまるでお花畑のように競い合って咲き誇っています。しかし、馬の背とよばれる標高2700メートルの場所で異変が起きていました。かつて辺り一面に広がっていたお花畑がなくなってしまったのです。今ある葉っぱなども何者かによって食いちぎられてしまった形跡があります。

石川さんはその真相を究明することにしました。するとその夜、姿を現したのはアナグマでした。普段はもっと山の麓でしか見ることのできない動物なのですが、辺りを闊歩しています。その他にもホンドギツネやニホンジカが次々と姿を現し、お花畑を食い荒らしていたのはニホンジカであることがわかりました。仙丈ヶ岳でのニホンジカはこの5年で19000頭から約30000頭までその数を増やしています。その原因について、以下の3つが挙げられます。

1.里山が荒れてしまい、藪などが増えてしまったため食料がなくなった
2.狩猟人口が減少し、その個体数が減らなくなった
3.温暖化による積雪量の減少で、上の方まで来ることができるようになった

ニホンジカは、着実にその行動範囲を仙丈ヶ岳の山頂方向に向けていて、ついにある日山頂に近い場所で多くのニホンジカが目撃されました。すごい勢いで高山植物を食べています。ライチョウの生息域までとうとうシカが到達しました。山頂にはミヤマクロユリ、イワツメクサ、ミヤマダイコンソウなど多くの高山植物が未だに咲き誇っています。

シカが悪者みたいになってしまうような言い方ですが、シカとしては生きるためにしている行動であり、悪者というわけではありません。大切なのは、より知識のある人間がシカと人間、そして仙丈ヶ岳の3者が共生の道を作りだしてあげることなのだと思います。そんな共生の道への一歩として、仙丈ヶ岳の多くの場所でシカの防護策が設置されました。高山植物の再生には約30年という長い年月を要すると言われていますが、着実にその歩を進めるしか道はないのです。

ライチョウが飛び回り、高山植物がきれいに咲き誇るこの風景。失ってはならない日本がここ仙丈ヶ岳には凝縮されています。その中で全ての関係する生きとし生けるものが共に手を取り合って、住みやすい命の営みを作り会っていく姿も、ここ仙丈ヶ岳に凝縮させて欲しいと思います。

【参考】素敵な宇宙船地球号 11月9日

花かおる仙丈ヶ岳・東駒ヶ岳 (ビジター・ガイドブック) 花かおる仙丈ヶ岳・東駒ヶ岳 (ビジター・ガイドブック)
(2006/07)
津野 祐次

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