意思の弱さを改善しよう
自分は意思が弱い、はじめに決めたことが守れない・・・
自分も含めて、そういう人はかなりいると思います。そこで様々な意思決定論に関する本を読んで初志貫徹する強い志を持つにはどうしたらいいかを必死で勉強しようとします。そのほとんどの本には、次のようなことが書いてあるんですよね。
・自分のことは自分が一番分かっている。なんで、何かを意思決定したときに、どうしてその選択肢を選んだのかをちゃんと説明できる
・日常の些細なことは別としても、人生の重要な意思決定をするときには、理論的、合理的に行うべき
・自分にできないことを意思決定しても仕方ない。自分にできることを意思決定すべき
なるほどって思ってしまい、なんの疑問も感じないんじゃないでしょうか。
でも、首都大学東京の長瀬勝彦教授の話を伺って、その考え方が誤っていることに気付かされます。
自分のことなんて、分かっているつもりで実は分かっていないことが多く、他人の方が自分のことを分かっていることが多いんですよね。なので血液型の本が売れている要因もこう言うところが影響しているんだと思います。
しかも、自分では理性的に判断しているようで、そうでもないそうです。実は、無意識が判断していることも多く、実に多くのことを判断してくれているのです。
しかし、無意識も万能ではなく欠点もあります。それは、早とちりをしがちだということ、融通がきかないこと、基本的に短期志向であることが挙げられます。無意識は、すぐ先のことの判断には本当に優れています。しかし長期的な判断には不向きなんです。
世の中の本に、上記のような合理的な判断が大切と説いているものが多く存在しますが、長瀬教授は合理的な意思決定が有効なのは、特定の場面に限られると言います。これはかなり衝撃的な意見でした。しかも、合理的な判断が有効ではないだけでなく、時に有害になったりもするそうです。
例えば、イチゴジャムが5つあっておいしい順に並べるとき、理由を付けてランク付する場合と、理由なしでランク付した時とでは、圧倒的に理由を付けない方が専門家の感覚に近くなったそうです。むやみに分析すればいい結果を生み出すわけではないのです。
つまり無意識な判断も、自分の中でその欠点も理解しつつ、意識的な判断と共に使ってあげることによって、よりよい判断ができるというのが結論になります。
この無意識の判断をうまくビジネスに結びつけている例として、九州新幹線の部分開通があげられるそうです。九州新幹線は博多?鹿児島を結ぶのですが、普通に考えれば既に開通している博多から着工すべきだと思います。しかし、鹿児島方向から部分開通しているのは、「ここまで作ってしまっては、途中でやめるのはもったいない」という無意識の心理をついた動きだと、とある政治家が語っていたそうです。
このように、これまでにつぎ込んだ資金田努力を無駄にしたくないと考えて合理的な判断ができない傾向を「埋没コストの錯誤」と呼ぶそうです。
無意識の意思決定の欠点が露呈してしまった結果なんですが、こういうものを意識が抑えて行く必要があります。
個人レベルでも、時に無意識は同じような問題を引き起こしてしまいます。例えば、「ダイエットを誓ったけど、次の日にはケーキを食べちゃった」「入試で勉強しようと決意したのに、つい遊んじゃった」こういうのを意思が弱いって言われるんですが、長期的な意識の判断は有効と分かっているんですよね。でも、長期的な意思決定の力はすごく弱いそうです。無意識の短期的な意思はすごく強く融通が利きません。
このほかの例としてすごく興味深かったのは、アメリカで行われた幼稚園児へのマシュマロテスト。
「今すぐ1個あげるよ。でも20分待てば2個あげるよ。いつでも言ってね。」といった場合、待った園児、すぐにもらった園児がそれぞれいたそうです。その園児を追跡調査した結果、我慢して2個もらった園児の方が、総じて聡明になったそうです。
人間は目先の無意識の判断からくる欲望に弱いものです。でも、その先には意識が判断した合理的なものがあります。
自分たちは、短期的な無意識の判断の弱さを分かった上で、この場面で従っていいか、ダメなのかを振り返ってみる必要があるといえます。そこで、無意識の判断を信じることも時には大切です。しかし、長期的な視野にたって行動する必要がありそうだと思ったら、我慢して抑えようと頑張らないといけません。
今回のセミナーで、合理的でなくても意思決定ができること、それを肯定していることに感動しました。そして、無意識の判断の弱さを改めて感じつつ、うまく使い分けていきたいと思います。
【参考】夕学五十講 長瀬勝彦 「働く人のための意思決定論」より
意思決定のストラテジー―実験経営学の構築に向けて (1999/11) 長瀬 勝彦 |
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