エジプト巨大人造湖の奇跡
年に2度だけ、神殿の奥まで太陽光が差し込むというレベルの高い設計となっていて、この日だけ太陽神と王は一体化することができるといいます。
ここに危機が迫った出来事がありました。
それがアスワンハイダムの建設。
ナイル川をせき止めたダムに作られた人造湖、ナセル湖は琵琶湖の7倍もの大きさを持ち、アブ・シンベル大神殿が水没の危機に陥りました。それを国家レベルで大移動を行い、今に至っています。
ここから遺産を守ろうとする気運が高まり、この出来事が世界遺産誕生のきっかけとなりました。
突如できたこの人造湖によってエジプトの環境は激変していきます。ナセル湖の水が蒸発し、雲となってそれが大陸からの暑い空気に乗って海の方へ。その途中の砂漠で、豪雨となって周辺の村々を泥水が襲います。
一方、人造湖の付近では太古の昔に息づいていた命の営みが復活していたのです。多くの植物の中に、古代のエジプトでは守り神として崇拝されていたナイルワニの姿もあります。
ナイルワニは、ナイル川の氾濫を察知しその水位よりも高いところで巣作りをするということから、当時の人たちに反乱を予測する神として崇拝されてきたのです。ワニの腹には、水を検知するセンサーのようなものが最近の研究で分かってきました。
このように、ナセル湖はエジプトに光と影を与えつつもかつての面影を取り戻しつつあります。さらに、ナセル湖建設のために立ち退きを余儀なくされた人たちを呼び戻す動きも出てきています。
最後に地元の研究者はこのように言っています。
「自然を守るだけではなく、人間が自然に順応していくことが大切なのではないでしょうか。」
自然と自分たちは共生する生き方が必ずあるはずです。決して人間が自然を駆逐してしまわない、けれども自然のなかに自分たちも確実に住みやすい世界を作る。
今回のアスワンハイダムは偶然の産物だったのかもしれません。しかし、ここにこそ自然との共生という答えを見いだせるのかもしれません。
2007年10月21日放送 「素敵な宇宙船地球号」より
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