1粒のタネが世界を動かす
日本におけるトマトの年間売上高は約2000億円なのですが、その中で25年もの間ダントツのシェア1位を保持してきたのが、タキイ種苗のブランドである桃太郎トマトでした。サカタのタネのブランドである王様トマトは桃太郎という強い相手に長らく勝つことが出来なかったのです。その長い戦いはタネの戦いでもありました。
タネの戦争で重要なキーポイントは、いかに優れたタネを開発するかに掛かっています。今日本の園芸を支えている技術は、F1と呼ばれるタネの一代雑種を作る方法です。基本的にこの方法は、おしべとめしべを人の手によって交配させます。通常交配させると求める性質をもつものがなかなか出てこないものですが、それを繰り返すことによって、F1と呼ばれる一代雑種が生れることがあるそうです。そこには勘や運といったものも要素としてあるのが現状です。
このように一粒のタネを巡って大きなビジネスが今動いているのです。タネ業者としては自社のタネおよび生産物のシェアを拡大することにあります。その大きなカギを握っているのが、F1(一代雑種)の品種開発技術にかかっているといえます。
そのビジネスは世界を大きくまたに掛けたグローバルなものとなっています。今その中で最も注目を浴びている国がインドです。この国は人口が多く、菜食主義者も多いことから巨大なマーケットとして取り上げられているのです。同じように魅力的なマーケットだと考える企業も多く存在し、その中でもインド国内種苗メーカーである「メタヘリックス社」は遺伝子組み換え技術(GM)を武器に国内シェアの拡大を狙います。
メタヘリックス社長のK.K.ナラヤナンさんによると、作物の質と量を向上させる技術は遺伝子レベルにまで到達していて、遺伝子組み換えに対する不安があることはわかっているがそれらの多くは誤報であると断言します。
遺伝子組み換えは、理論的には自然界にありえないようなどんな組み合わせも実現することができる魔法のような技術なのですが、それゆえ自然の摂理に反するフランケンシュタイン植物と呼ばれヨーロッパや日本で激しい反対運動が起こりました。
今でもスーパーで売られている製品の原材料欄にわざわざ遺伝子組み換えでないと書かれているものも数多く存在するほど。専ら海外からの輸入品に遺伝子組み換えが多いと言われてきました。ところが、すでに国産でも遺伝子組み換えのナタネが発見されています。この遺伝子組み換え作物の影響については未だに明らかにされていないのが現状です。
また、遺伝子組み換え作物は耕作する上でこれまで予期していない副作用があることもあります。例えば、害虫に強い品種であるGMですが代わりに大量の水を必要とすることもあります。さらに、遺伝子組み換えの種苗には特許になっているものがほとんどなので、種苗の価格が高いのが一般的です。インドの綿花の例でいうと、これまで1キロあたり7ルピーで買うことができた種苗が、遺伝子組み換え種苗だと1キロあたり1万7000ルピーと実に2000倍以上にも価格が高騰してしまったのです。
モンサント、デュポン、シンジェンタといった世界の上位種苗メーカーでは遺伝子組み換え種苗を取り扱っており、売り上げに大きな影響を及ぼしています。今このような多国籍企業の矛先は日本に向いています。野菜の種を遺伝子組み換えにするという目標を掲げています。
国も遺伝子組み換え技術を選択肢から外すことはすでに考えておらず、農水省によるとあと4年程度で実用化させたいとしているのですが、食の安全性、生態系への影響などを見極める必要があり、もう少し時間的にはかかると思われます。
一粒の種が世界を動かすかもしれない大きな岐路にいま差し掛かっています。金と力にものを言わせビジネスの世界と割り切って進むのもいいのですが、自分たちの体がどうなってしまうのか、後世に残すべき自然がどうなってしまうかさえ明らかになっていない現状において、遺伝子組み換えを積極的に推し進めることは難しいと考えます。
私たちの未来は、私たち自身の選択に掛かっていることを肝に銘じる必要が今あるのかもしれません。
【参考】素敵な宇宙船地球号 2009年7月26日
このなたね油は遺伝子組み換え原料は使用していません圧搾しぼり菜種油 1350g
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