JR中央線・事故多発の理由
6月22日(金)23時45分ごろ。
東京の大動脈、JR中央線の中央ライナー11号東京発高尾行きが、立川駅に停車しようとしていた。
立川駅で下車する乗客がかばんを持って席を立ち、列車が速度を落とし始めた途端、急ブレーキがかかった。座っている乗客のペットボトルから水がこぼれた。
立川駅で下車しようとしていた乗客たちは、車内の通路に並んだままである。外からはけたたましい列車停止ボタンのブザーの音が聞こえてくる。
「ただいま、5番線ホームにてお客様が線路内に転落したため、すべての列車が停止しております。安全が確認されるまでしばらくお待ちください」
車掌のアナウンスが車内に響いた。
中央ライナー11号が停車するホームは7番線である。5番線で何が起きたのか。
その後列車はわずか2分ほどで動き出し、停止位置で停車。乗客は下車した。
5番線ホームに行ってみると、明らかに酒を飲んでいる乗客がホームに座り、横に駅員と警備員がひとりづつ寄り添っていた。
線路に転落したのは酔客で、額からわずかに出血していたが、駅員や警備員と色々しゃべっていたので軽症といったところだろう。
ただし、額という怪我の場所から、救急車の乗せられて病院へ搬送された。
JR中央線では連日のようにこのような事故が起きている。利用している人はわかると思うが、ほぼ2日に1回ほどの割合で、何らかの事故が起き、ダイヤが乱れる。
オカルトマニアの間では、中央線のオレンジ色の車体や、発車ベルの音楽が、飛び込みを誘発するとか、自殺の名所となっているから、全国から自殺志願者が引き寄せられ、人身事故が起きる、などともささやかれている。
そこで、JR立川駅で旅客誘導員という種類の警備員をしているSさんに聞いてみた。
「まあ、そういう心霊的なことはわかりませんが、心霊的なことが一切なかったとしても、きっと事故は減りませんよ」
その原因は何ですか?
「簡単に言えば、乗客が多すぎるんです。それに対してどこの駅もホームが狭すぎるんです。我々は、ホームの工事中の部分など、狭くなっているところに立ち、乗客に拡声器で注意を呼びかける仕事をしています。要は、ダイヤの案内などはしない駅員みたいなものです。そうやって、ホーム上の乗客を1日中見ているとよくわかるんです。立川駅は朝や夕のラッシュ時には、乗客で身動きが取れなくなるような状態になります。1分おきくらいで電車が来ても、次から次へとお客さんがあふれてきます。だから、ホーム拡張や階段増設などの工事をするのですが、そうすると工事中はホームが狭くなる。結果としてホーム上から線路へ落下するお客さんが増える。2001年に起きた、JR山手線の新大久保駅の事故を受けて、警備員や駅員はお客さんが線路に転落しても絶対に線路に下りてはいけない決まりになっているんです」
新大久保駅の事故とは、線路に転落した酔った乗客を助けようと、その場にいた日本人カメラマンと、韓国人留学生が線路に降り、そこに入ってきた列車に3人ともがひかれ、死亡した事故を指す。
新大久保駅の事故以来、JRなどの各鉄道会社は、ホーム上に黄色と赤で目立つ「列車停止ボタン」を増設し、利用客にも使い方を徹底してきた。
「列車停止ボタンは、押すと大きなブザー音が鳴り、そのホームだけでなく、いったん、その駅に入ってくる列車がすべて停止するようになっているんです。我々、駅関係者だけでなく、乗客の皆さんも“危険だ”と判断したら、ためらわずに列車停止ボタンを押してほしい」
とSさんは語る。
一方で、乗客のマナーの悪さも指摘する。
「駆け込み乗車をするお客さんが多いんです。駆け込んだお客さんがドアに挟まれたりした場合、小開扉(しょうかいひ)といって、車掌がドアを全開ではなく少し開くんです。小開扉なんかは、立川駅だけでも1日に何十回も起きるんですよ。
しかし、悪質な駆け込みになると、乗り遅れそうになった列車のドアに、傘の先端やかばんを外から挟むお客さんがいます。
その場合、挟まっているものが薄すぎて、車掌にドアに何かが挟まっているということが伝わらない場合があるんです。その場合、我々が列車停止ボタンを押すことになります。結果、その列車だけでなく、その駅に乗り入れるすべての路線に遅れが生じます。
JR中央線は新宿駅や東京駅、立川駅といった、世界でもまれに見る乗降客の多い駅を通る路線です。それらの駅でそれぞれ1日に1回づつ列車停止ボタンが押されたら、もうダイヤはガタガタです。
しかも、夜は酔ったお客さんが多くて、いくら警告してもふらふらとホームの端を歩いたりするんです。新宿駅の中央線下りホームは現在工事中の仮ホームで、狭くなっているので、夜なんかお客さんが転落しないように、駅員も警備員も大変ですよ」
確かに、いちばん大切なのは安全であるから、多少のダイヤの乱れは仕方がない。事故も、JRは努力して工事などを進めている。
いちばん問題なのは、乗客のマナーのようだ。
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