八ツ場ダム建設に関する費用について
今、様々なニュースで取り上げられている八ツ場ダムの建設是非について、民主党は中止を含めた見直しをしようとマニフェストにも掲載しており、政権下でもその考えは変わらないという考え方を示しています。この八ツ場ダム建設に関しては、実に多くの切り口が存在し、メリットとデメリットを簡単に比べることなどできません。
自分も毎年草津に旅行に行くのですが、その際には必ず吾妻渓谷を通り問題となっている八ツ場ダムの建設地を通過することになります。高い橋脚がいくつも建設され、山の上の方にはトンネルも見えます。秋に行くと吾妻渓谷の紅葉は本当に美しく鮮やかな姿を見せてくれ、この場所がダムの沈んでしまうことが残念という気持ちを新たにします。
建設を中止すべきという人々の理由としては、自然環境の保護、コスト削減、治水や利水の必要性がすでにないという点に集約することができます。様々なメディアでは50年以上も闘ってようやく気持ちの整理をして移り住む地元の皆さんの声を伝えています。この声を聞くと、本当に中止すべきなのだろうか、地元の皆さんが望む姿なのかと考え込んでしまい、答えを見いだすことはできません。すでに代替地へ移り住んでいる方にとっては今回の問題は非常に悩ましい状況だと思います。
今回は、答えを見いだすのではなく建設を中止することによる「コスト削減」という観点に絞ってこの問題を考えてみたいと思います。以下に建設を続行した場合と中止した場合のそれぞれのコストを現在公表されている数値から算出してみます。
◆建設を中止した場合にかかるコスト
2230億円
– 利水関連経費(地方公共団体に返還): 1460億円
– 生活再建関連: 770億円
◆建設を続行した場合にかかるコスト
1390億円
– ダム建設工事: 620億円
– 生活再建関連: 770億円
中止した場合には、すでに地方公共団体から出してもらっている利水関連の費用を返還することが法律で決まっているそうです。また、すでに移り住んでいる人もいる関係上、現在作っている道路などの生活をする上で必要な整備費用は引き続き掛かります。一方で建設を続行した場合には、ダムの本体工事および道路などの生活関連整備費用が掛かります。これだけを単純に比較すると、ダムを中止した方が840億円も多くコストが掛かってしまうことになります。しかしこれだけを単純に比較することはできません。ここにふたつの観点を追加する必要があります。一つは維持という観点、もう一つはコスト増になるリスクです。
・維持管理の費用
ダムをつくれば、定期的に建設した建造物自体のメンテナンスの他、川底から砂や砂利を取り出したりする補修作業も必要です。ざっくりと年間10億円かかるとすれば、84年間で差分は解消されることになります。このメンテナンス費用が2倍になれば損益分解点は半分になります。
・建設コスト増のリスク
これまでの建設費用は当初よりも大幅に掛かっていることが知られています。ダム建設工事自体も620億円ではなく、仮に1200億円かかることになれば中止した場合のコスト差は
260億円となり、上記メンテナンス費用を年間10億円とすると26年で損益分解点を迎えます。さらにメンテナンス費用が2倍になれば13年になるのです。
ここではあくまでもダム建設に関わるコストの部分に特化して考察しましたが、トータルコストを考える場合には、利水・治水したメリット、自然環境に与える脅威等を勘案する必要があるので、一つの目安にしかなりません。住民の方、流域の住民の方が納得する形で決着してくれるといいと切に願うばかりです。
八ッ場ダムは止まるか―首都圏最後の巨大ダム計画 (岩波ブックレット) (2005/02) 八ッ場ダムを考える会 |
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