1億ボルトを捕まえろ
オーストラリア北部に広がる世界自然遺産・カカドゥ国立公園。200種類以上の動植物が生息し、ユーカリの森が広がる自然の宝庫のこの場所は、違った側面を持った国立公園でもあります。
付近に残されている壁画からも原住民アボリジニが書いたとみられるナマルゴンが描かれています。このナマルゴンは怒ると斧を打ち鳴らし襲いかかると信じられているもので、今でもナマルゴンが現われたらすぐに逃げなさいと言われています。
このナマルゴンの正体は雷です。カカドゥ国立公園は内陸からの乾いた風と海からの湿った風がぶつかることによって激しい上昇気流が発生することから発生する巨大積乱雲によって、世界有数の雷発生地帯として知られています。雷のエネルギーはすさまじく、その電圧は1億ボルト、温度は瞬間1万度にもなります。雷鳴は銃声とそっくりで、付近の街であるダーウィンでも雷対策を欠かすことはできません。
この雷はどのように生まれるのでしょうか。雷は簡単に言うと雲の中の巨大な乾電池と見ることができます。上昇気流によって水分が凍り、氷となります。これが上昇していきその重さに耐えられなくなり今度は落下に転じます。その際に上昇する氷と落下する氷がぶつかり、落下する氷にマイナス電子が集まります。その結果、雷雲の下の方ではマイナスの電気が渦巻くことになるのです。それが地上に一定量あるプラス電子に対して一斉に流れ込むのが雷なのです。
自分たちは雷について少し誤解している部分がありますが、雷は高いところに落ちると言われています。実際サッカー場やゴルフ場などの平坦なところにも落ちています。さらにゴム製の長靴を履いていれば大丈夫、傘や金属をつけていると落ちやすいといったことが言われていますが、あまり意味がありません。建物内に逃げ込むことが最も効果的と言えます。また、雷鳴が遠にあるからまだ大丈夫というのも間違いです。平均で雷鳴は14キロメートル遠方のものまで聞こえると言われているのですが、次の瞬間その距離を飛び越えて落ちることもあるので、聞こえたら危険ゾーンなのです。
このカカドゥ国立公園の雷について、一人の研究者が雷研究を続けています。その研究者が大阪大学で雷放電物理が専門の河崎善一朗教授です。河崎教授は「雷博士」とも呼ばれていて、雷研究の権威として世界的に知られています。
河崎教授は、「雷キャッチャー」と呼ばれる装置を導入して雷研究を進めています。この装置は、ゴロッと雷が鳴ると1秒間に1000?10000もの電波を測定することができるもので、電波を全て記録することで、雲の中の雷の動きを明らかにすることができる素晴らしい装置です。雲の中の電気の流れが分かれば、どこに落ちるかを推測できるといいます。
さらに、河崎教授はロケットを使った実証実験も行っています。ニクロム線につながったロケットを打ち上げることによって、地上のプラス電子をニクロム線に給電させ、そこに意図的に雷を落とすというもので、事故を未然に防ぐことができると期待されています。
近年、雷が引き起こす様々な問題が明らかになってきました。例えば、地上から発生するNOX窒素酸化物が雷雲に乗っかって成層圏まで行くとオゾン層破壊につながってしまうなど、雷をきっかけとした多くの環境問題が潜在的に潜んでいるのです。
河崎教授は、将来の厄介な問題の解決に役立てば将来の雷博士としての値打ちが出てくると改めて気を引き締めます。雷の発生原因には未だに謎な点も多いのですが、人間による地上からの熱の大放出も原因の一つと言われています。もしそうであれば、いつの間にか自分たち自身が雷をおびき寄せていることになります。
自然環境は、今も昔も変わらずそこにあります。昔から何かが違うとすればかならず人間が自然に悪影響を与えているはずなのです。自然に打ち勝つことなどできないのですから、どうしたらうまく共存できるかを考え、自分たちがただすべき所を見つけることが大切ではないでしょうか。
とりあえず、おへそを取られることがないよう、雷が鳴ったら建物内に入りおへそを押さえておくのが一番の対策といえるでしょう。
【参考】素敵な宇宙船地球号 12月14日
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