桃源郷の巨大エレベーター
中国湖南省の北西部に広がる景勝地である武陵源。ここには山水画のような雄大な風景が広がっています。天に届くかのような岩山とその間を流れる清らかな水の素敵なコントラストが世界遺産にふさわしいと認められ、1992年に登録されました。
それ以来多くの環境客が来るようになり、2008年は1,600万人のも観光客が武陵源を訪れています。その増え続ける観光客に対応するために取り入れられたのが指紋登録により入場チケットでした。武陵源の入り口付近に最新鋭の設備が導入され、以前あった不正入場もなくなったといいます。
◆武陵源の成り立ち
400km2もある広大な土地に、この奇妙な岩山ができあがった理由は約3億8千年前に遡ります。武陵源付近はかつて海の底でした。それが2億年前に石英砂岩と石灰岩によって2つの地層が形成され、それが隆起して造山運動によって亀裂が生じ、そこに雨が降り注いだ結果石灰岩の層が溶け出してしまったため、石英砂岩の部分だけが残った結果現在のような岩山が形成されたといわれています。
◆武陵源に存在する人工物
武陵源付近に存在する中国最大級の鍾乳洞である黄龍洞の内部にはカラフルな照明が輝いていてライトアップされています。少し派手なような気がしますが観光客には概ね好評だそうです。
武陵源の山の上にのぼるための百龍エレベーターもあります。パンフレットには「奇怪で険しい石峰にそびえ立っているあなたをハラハラドキドキさせながら絶景を楽しませる」とうたっており、326メートルを1分58秒で登り切ってしまいます。
このような世界遺産の観光地化に伴う人工建造物に関しては、景観と利便性をどのように両立させるかという難しい課題を残しているのです。世界遺産が観光地化することによって、働き場所が増え周辺地域も観光業というこれまでできなかった業種の産業を発達させることができるというメリットがある一方で、様々な問題も起こっています。
◆観光地化による問題
武陵源一帯に200年以上前から生活をしているトゥチャ族は田畑を耕しながら生きてきました。それが1992年の世界遺産登録に伴って激変するのです。村人達は次々とホテルやレストラン経営に乗り出していきました。こうして進みすぎた世界遺産の観光地化にユネスコは危機感を強め、地元行政も世界遺産保護条例を制定しました。
この条例は環境保護に影響のある建築物は撤去もくしくは移転しなければならないというものであり、その結果128件のホテルが取り壊されました。次第に武陵源の山上から先住民は消えていったのです。彼らは新しい場所に住む場所を与えられたのですが、一体誰のための世界遺産なのかと今でも疑問をもっています。
気になるのは百龍エレベーターもこの条例の対象になるのではないかということですが、オーナーによると、環境を保護する上で最善の方法はさっと上がってさっと降りることだといいます。ロープウェーだと1-2キロメートルもロープを張るから景観を損ねるのに対してエレベーターは面積が小さいから景観への影響が小さいと主張します。
この主張に対して早稲田大学の栗山浩一教授はこの主張は違うのではないかと疑問を呈すると共に、世界遺産はアクセスが悪いくらいの方が大量の環境客による生態系の影響などを最小限に抑えることができるのではないかと提案しています。
◆自然環境への影響
武陵源では豊かな清流が誇りでしたが、その川の水も汚水が流れ込むことによって汚れていきました。それによって、清流にすむことが知られているオオサンショウウオの個体数も大幅に減少してしまうという結果にまでなっています。さらに、野生のサルも人間が与える餌によって山から下りています。
地元では最新鋭の汚水処理センターを建設し、毎日清掃スタッフを投入して隅々まできれいにする活動を必死に開始することによって、いなくなりつつあるオオサンショウウオを繁殖させるために、日々努力をしています。
世界遺産のそもそもの目的は、かけがえのない景観を後世に残すことです。それが観光開発によって、逆に危機を招くという矛盾に自分たちはどのように取り組むべきか、そのことを自分たちに突きつけている一例なのです。
日本を含むその他の世界遺産の地で同じようなことが起こっています。対岸の火事では済まないこの問題に対して、自分たちの豊かさは今から未来を向くような仕組みや取り決め、考え方のCHANGEが必要な時期なのかもしれません。
【参考】素敵な宇宙船地球号 2009年6月28日
virtual trip CHINA 武陵源【張家界】 LONG VERSION [DVD] (2008/05/09) BGV |
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