あしたまにあーな

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コスモスの影にはいつも誰かが隠れている

2010年6月 23日 By: rainbow Category: ブックレビュー No Comments →

はじめて藤原新也という方の文章に出会ったのは、東京メトロ構内で配布しているフリーマガジン「メトロミニッツ」の最後のコラムでした。情報が無限に広がる中彼の文章を読んでいると、その時間だけ自分の時間に没頭することができる、そんな不思議な魅力がある内容ばかりでした。

彼のコラム「撮りながら話そう」は、始めに文章に関連する1枚の写真と、その後に続くコラムから成り立っています。コラムの内容は一言で言うと「日常に潜むほんの小さな心の葛藤を切り取った物語」であると言えるでしょう。

そこに登場する人々は、誰にでもあるような日常の生活の中の出会いや別れ、そして死を意識した思いをするのですが、それが藤原新也という人物を通じると、すごく感動的で心の奥底にまで届くような圧倒的なものとなって心を揺さぶるのです。

その「撮りながら話そう」から藤原さんなりに選んで加筆追加したものが、「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」になります。

この本のあとがきで、藤原さんは次のような言葉で本を締めくくっています。

「人間の一生はたくさんの哀しみや苦しみに彩られながらも、その哀しみや苦しみの彩りによってさえ人間は救われ癒されるのだという、私の生きることへの想いや信念がおのずと滲み出ているように思う。」

この言葉は、すべての内容に共通しているように思えます。生きることへの想いは、決して楽しいことばかりではありません。つらいことや苦しいこと、本当にこの生き方は正しかったのだろうと思い悩む姿を通じて、考えさせられることも多くあります。

でも、本書を読んで苦しくなるのではなく、心揺さぶられる気持ちになるのは、人間が持っている根源的な心理がそこにはあるからなのかもしれません。読み終わった後には、心がなぜか温まってくるのです。

非常に読みやすい短編となっているので、すっと読むことができると思います。願わくは、「撮りながら話そう」のなかで「コスモスの影にはいつも誰かが隠れている」に載せることができなかったものを続編として期待したいと思います。

あなたも、静かな感動と心の中に広がる生きることへの想いを感じてみませんか?

コスモスの影にはいつも誰かが隠れている コスモスの影にはいつも誰かが隠れている
(2009/08/28)
藤原 新也

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ツインカップ

2009年4月 24日 By: rainbow Category: 日記 No Comments →

マイセン

何度か紹介している東京メトロの駅で配布しているフリーペーパー「メトロミニッツ」の中の一コラムである「撮りながら話そう」はいつも読み手の心を揺さぶる物語に溢れています。自分がこのフリーペーパーを読むのが楽しみに20日を待っているのはこの記事があるからこそなのです。

いつかこの記事をまとめて本にしてほしいと思うくらい、その内容の完成度はかなり高いと思います。今日は今月号に掲載された「ツインカップ」を紹介します。

千葉県は房総半島の国道127号から外れたところにぽつんとある喫茶店「カフェ・恵」。

家はバラック建ての粗末な平屋建てで、店内には白いワンピースにアプリコット柄の前掛けを羽織った色白の30代とおぼしき女性と、逆に色黒のがっちりとした精悍な感じの男性がそろって、「いらいっしゃいませ」と人の心に染みいるようなデュエットで迎えてくれます。

カウンターの上のガラスの陳列ケースには2つのコーヒーカップが仲良く並んでいます。そこに書かれていたのは「meg」と「hide」という文字。店の風貌とは異なり、そのカップはマイセンのものでした。

数年後に再度立ち寄った「カフェ・恵」に小さな変化が起こりました。「meg」のカップだけがないのです。しかし2人はいつものようにそこにいたのです。

数ヶ月後に訪れると、「meg」のカップだけでなく「meg」自身もいませんでした。hideに問いかけると「ずっと患っていた乳ガンが3ヶ月ほど前、肺に転移し入院しておりまして・・・・」とのこと。

さらにその半年後、「カフェ・恵」のあった場所はアスファルトの駐車場になっていて、その周りには秋の日差しのもと、たくさんのアメリカ泡立ち草の黄色い花が風に揺れています。

「いらっしゃいませ・・・」

不意に、あのデュエットが聞こえたような気がしました。

本当に短い小説なのですが、この二人はおそらく夫婦だったのでしょう。ずっと二人の夢だった喫茶店を開くことができ、奥さんであるmegも旦那さんであるhideも幸せだったに違いありません。

そんな彼らにも運命は残酷にも降り注ぎます。この後旦那さんはどうしたのかは分かりません。どこかで奥さんの想いをつなぎ続けているのかもしれません。そんなストーリーが次々と頭に浮かんでは消え、なんとなく切なくなってしまうのが、作者である藤原新也さんの作品なのです。

【参考】metro min. No.078


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