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おいしいコーヒーのいれ方 雲の果て

2011年7月 09日 By: rainbow Category: ブックレビュー No Comments →

すでに開始から15年以上が経過している村山由佳さんの「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズですが、このたびセカンドシーズンの5作目「雲の果て」が登場しました。

はじめは勝利が熱でうなされる場面から始まります。前回までの内容を踏まえているのですが、肝心の前回の話題を頑なに今回の内容に記述したくないのか、そこは「察しろよ」と言われているようだったので、あえて深く突っ込まないで読み進めます。

自分は今回の内容をすべて読み終わった後に、前回の「凍える月」の最後の場面を読んでみたのですが、この最後の部分と今回の始まりから全編にわたって漂う勝利の償いの気持ちには若干の行間があることが改めてわかります。

勝利は前回の「事件」のあと、単身で秀人さんが研究を続けているオーストラリアに向かいます。大学を休学して大好きなかれんとの関係をも断ち切ってまで日本を離れなければならないほど、勝利にとってその「事件」は大きなものだったのでしょう。かれんからの手紙が読まれることもないので、今回はまるで物語が変わってしまったかのように勝利のエアーズロックでの出来事が中心に書かれています。

おそらく勝利が出てこなかったら、全く別な話になっていたでしょう。これまでのおいコーを彷彿とさせるのは、わずかに登場する丈の手紙や勝利の回想くらいでしょうか。というわけで、文化人類学の研究に没頭し、少しずつオーストラリアでの生活になれつつある勝利の物語が始まります。

エアーズロックは、ウルル・カタジュタ国立公園という中にある一枚岩ですが、自分も数年前に奥さんとともに登ったことがあります。登ってみると360度のどこまでも続く地平線をみることができ、なんだか世界観が全く違って見えてくるのが不思議でした。さらに、現地のアボリジニであるアナング族の文化を知るきっかけにもなりました。

そんな自分が行ったことがある場所だけでに、読みながら「あそこの話ね」と想像することができたので違った楽しみ方ができました。話の中でそういったアナング族の生活や思いを伝えているところがあるのも、そういった文化と歴史的背景が深く心に刻まれてしまったからなのだと思います。おそらく行かれたことがある方は、このあたりは自分も同じようにみて感じた部分だと思える内容だと思います。

勝利は、研究をしながらも徐々に現地で働く女性から信頼されるようになり、プライベートな家族の問題にまで入り込んで仲介していくようになります。最後の場面でも同世代の女性との関係が続いた状態で終わったので、次回もこのあたりが進んでいくだろうなと想像できます。

自分としては、このあたりの内容からどうやってかれんや星野りつ子、マスターや丈といった関係者との話につながっていかせるのか、まだ先が見えないのでもどかしく思ってしまいます。おそらく、今は勝利にとって何かを乗り越えるための大切な試練の時なのだと思います。題名にあるように「雲の果て」には何があるのか、勝利には今、まだそれが見えていないのでしょう。あとがきで作者が最終的なイメージがわいたとおっしゃっていたので、そこに期待したいと思います。

おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V 雲の果て (JUMP j BOOKS) おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V 雲の果て (JUMP j BOOKS)
(2011/06/20)
村山 由佳

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おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 凍える月 (JUMP j BOOKS) おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 凍える月 (JUMP j BOOKS)
(2010/05/31)
村山 由佳

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おいしいコーヒーのいれ方 凍える月

2010年6月 13日 By: rainbow Category: ブックレビュー No Comments →

村山由佳さんの人気シリーズ「おいしいコーヒーのいれ方」は、その誕生から17年が経とうとしています。本になってから今回の最新作「凍える月」で実に14冊目という長い間、主人公の和泉勝利と花村かれんを中心に物語は様々な方向転換を繰り返しながらも、しっかりと本人たちは成長し続け、それと共に読者も成長しています。

今回は、かれんが働いている鴨川の老人ホームでのアクシデントをきっかけとして、かれんの今後について新たな決断をしなければならない時がやってきます。

その心細い状況を勝利が必死に大人の対応で支えていきます。物語の中とはいえ勝利のかれんを想う気持ちと、場面ごとで話す内容が同じ男性としてすごくかっこいいと思えます。

「つらいときや悲しいときは泣いていい」

言い古された言葉ではありますが、これを言ってもいい男女関係というのは非常に限られていて、なおかつそれを女性にいってあげるときの男性もそれ相応の心の広さと包容力を発揮しなければなりません。また、この言葉を聞いた女性から、一定以上の信頼を勝ち得ていないと成り立たない、非常に難しい語りかけなのです。

しかし、それを乗り越えたとき、女性は強くなることができ、前を向いてまた歩いて行けるのです。そういう意味で女性は男性よりも強い生き物なのかもしれません。男性のストレスや感情の発散方法は非常に限られているし、黙って一人で乗り越えていくことも多いのですから。

また、勝利の周りも少しずつ変わってきています。星野りつ子はようやく勝利への想いから吹っ切れそうで、自分で前を向き始めました。読者としても彼女にはいつも笑顔でいて欲しいと願ってしまいます。前回のように想いを断ち切れないときの苦しさを目の当たりにすると、すごく心苦しくなってしまいます。今回は原田先輩の妹である若菜がピンチを迎えますが、それをりつ子は支えて上げることによって、自分も立ち直ろうといているのです。

この物語を読むと、すべての人が心穏やかに幸せでいて欲しいと強く思えるのですが、最後のあとがきに村山由佳さんも言っているように、そうすんなりと話は進まないようです。最期の場面には思いかげない展開が待っていることになります。次回は読みたいような、心苦しくて読みたくないような複雑な心境を持った読後感でした。

今回の挿絵は、前回に引き続き結布さんです。この人の絵はすごくリアルで描写がすごくきれいです。文中に出てくるかれんやりつ子などの女性陣を美しく書いていて、思わず見とれてしまいます。是非ご覧になってみてください。

このおいしいコーヒーのいれ方を読んだときにはいつも自分でコーヒーを淹れたくなります。マスターのようにおいしいコーヒーを淹れることなどできませんが、少しでもそれに近づきたくて、豆をミルするところから始めて飲んでいます。一度マスターのコーヒーを飲んでみたいものです。

おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 凍える月 (JUMP j BOOKS) おいしいコーヒーのいれ方 Second Season 4 凍える月 (JUMP j BOOKS)
(2010/05/31)
村山 由佳

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消せない告白/おいしいコーヒーのいれ方

2009年7月 31日 By: rainbow Category: ブックレビュー No Comments →

村山由佳さん作の人気シリーズ「おいしいコーヒーの入れ方」もSecond Seasonになってはやくも3作目になりました。その作品は「消せない告白」という題名です。今回はこの作品についてご紹介したいと思います。

このシリーズも始めに書籍として登場したのが1994年ですから15年にもなる大作となっています。セカンドシーズンになって主人公である和泉勝利と花村かれんは苦難を乗り越えて付き合うことになるのですが、かれんは房総半島は鴨川へいくことになり離ればなれになってしまいます。そこからは、勝利の悶々とした心の模様が多く描かれていくことになります。

今回の3作目である「消せない告白」は、主に2人のつらい恋愛をしている人の心を勝利というフィルターを通してつづられています。ひとりは、勝利が暮らしているアパートの大家さんである森下家の次男である秀人。もうひとりはおなじみの星野りつ子です。

彼らには望みが薄い恋愛をしているという共通点があり、それでも諦めきれないという思いについて村山由佳さんなりの解釈がそこには示されています。世間では望みが薄い恋愛であれば、諦めなければならないとアドバイスする人が多くいますが、それは当の本人の心に届くアドバイスなのかというと決してそうではないのです。諦められないものは必ずあり、可能性が低いとしてもいずれかなうかもしれないという思いを抱いて待ち続けてしまうのだっていいのではないでしょうか。そんな苦しいテーマになっています。

これまで、勝利からみると星野りつ子は、告白されたにも関わらずどうしてやることもできず、想われることに苦痛を感じてしまう相手だったのですが、今回森下秀人という触媒を通して改めて考えてみると、大切なかけがえのない友だちであることを再認識するのです。

今回は、かれんと勝利、マスター、丈といったこれまでの人物が登場する機会は激減していて、限られた人の間で物語は進んでいきます。それがかえって、勝利の心を整理するという意味では非常に心地よく、わかりやすい展開につながっています。かれんとの関係も今後少しずつ変わっていくのかもしれませんが、かれんも勝利に言いたいことがあるようで、その部分は次回以降に持ち越しになってしまった感じで終わっています。

次回作はもう少し先のことになるとは思いますが、今まで以上に視野を広げて様々な考え方を肌で感じた勝利がどのようにかれんとの恋愛を進めていくのか楽しみです。

おいしいコーヒーのいれ方 Second Season III(3) 消せない告白 (ジャンプ ジェイ ブックス) おいしいコーヒーのいれ方 Second Season III(3) 消せない告白 (ジャンプ ジェイ ブックス)
(2009/05/29)
村山 由佳

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